前に「投資を始めて一番後悔したこと、仕事のやる気がなくなった」と書いた。
あのときは、投資の副作用だと思っていた。
でも、どうやら副作用じゃない。構造の話らしい。
1. 数字が、逆転した月があった
きっかけは、はっきりしている。
ある月、資産の増加額が、年収を超えた。
給料のために毎日満員電車に揺られて、上司の顔色をうかがって、それでも手取りは大して変わらない。
一方で、何もしていない資産は、その月の給料以上に増えていた。
このとき、頭のどこかで音がした気がする。
労働より、資産運用の方が効率がいい。
同時期に、どれだけ工夫して仕事をしても、給料にも評価にも反映されない実感が積み重なっていた。
数字の逆転と、報われなさ。この二つが重なったのが、たぶん一番のきっかけだ。
2. 根性の問題じゃなかった
やる気が出ない自分を、最初は情けないと思っていた。
でも、調べていくと、これは個人の甘えというより、構造の話らしい。
経済学者のトマ・ピケティが『21世紀の資本』で示した「r > g」という話がある。
資本収益率(r・資産が資産を生む利率)が、経済成長率(g・給料が伸びていくペース)を上回る、という主張だ。
この状態では、働いて給料を増やすより、資産を持って増やす方が効率がいい。理屈としては、そういうことになる。
さらに厄介なのが、心理面だ。
資産がないうちは、「生活できなくなる恐怖」が働く力になっていた。いわば、恐怖という名のブースターだ。
資産が増えて、この恐怖が消えると、皮肉なことにブースターも一緒に消える。
会社に依存しなくていいという安心感が、そのまま労働意欲の減退につながる。
3. マルクスとバフェット
大昔、マルクスは「労働疎外」という話をした。
自分の労働が、自分のものではなく、誰かの利益のために切り離されていく感覚のことだ。
バフェットは1996年の株主への手紙で、「いびきをかいているときの方が、動いているときより儲かり続けている」と書いている。
本人は「頻繁に売買するな」という意味で書いているのだが、労働と収益が切り離されている状態を、これ以上ないくらい端的に表している言葉だと思う。
俺が満員電車で消耗している間も、口座の数字は勝手に動いている。
会社員として労働を提供する側から、資産を持って資本家に近い立場へ移っていく。
この途中にいる人間が感じる葛藤が、たぶん今の自分の状態なんだと思う。
4. 頭では分かる。でも、まだ割り切れていない
じゃあ、これで気が楽になったかというと、正直、そうでもない。
「仕事は命綱じゃなくて、お小遣い稼ぎと社会貢献」。そう捉え直せば楽になるらしいというのは、頭では理解している。
でも、実際に毎朝会社に向かうとき、まだ完全にはその境地に立てていない。
長年染みついた「働かなければ」という感覚は、そう簡単には抜けない。
割り切れていない自分を、ダメだとは思わない。
むしろ、これだけ長く会社員をやってきた人間が、そんなにすぐ切り替えられるわけがないとも思う。
5. 会社というシステムを、賢く使う
早期リタイアして、それで全部解決するかというと、たぶんそうでもない。
仕事を辞めて、資産だけで生きていくのは、退屈という別の問題を連れてくる気がする。
資産があっても、悔しさや承認欲求は消えない。それは、身をもって感じたことがある。
だから今考えているのは、辞めることではなく、会社というシステムをどう賢く使うか、ということだ。
生活のためではなく、時間の一部を自分の裁量で使うための場所として、会社を再定義する。
そのくらいの距離感が、今のところ一番しっくりきている。
まとめ
- 資産の増加額が年収を超えた月があり、労働と投資の効率が逆転していることに気づいた
- やる気が出ないのは根性の問題ではなく、資本収益率が経済成長率を上回る構造上の反応らしい(ピケティのr > g)
- 生活への恐怖が消えると、労働のブースターも一緒に消える
- マルクスの労働疎外、バフェットの「いびきをかいているときの方が儲かる」にも通じる葛藤
- 頭では理解しても、まだ完全には割り切れていない
- 辞めるのではなく、会社というシステムを賢く使う距離感を模索中
前は副作用だと思っていた。実は構造だった。それが分かっても、まだ割り切れていない。
※投資にはリスクが伴います。将来の運用成果を保証するものではありません。投資は自己責任でお願いします。
◆ おすすめ証券会社【PR】
マネックス証券 UIが使いやすく、eMAXIS Slimなど低コストファンドも豊富。銀行から乗り換えたい人にも向いている。