最初の積立は、月1万円だった。

1円たりとも損したくなかった。

本当に、そう思っていた。投資信託の基準価額が下がるたびに「やっぱり失敗したか」と感じた。でも売らなかった。怖くても、続けた。


1. なぜ始めたのか

投資を始めたのは30代後半だった。

FXで負けてから、インデックス投資に切り替えた。最初は毎月1万円。多くはない。でも、それが限界だった。生活費の残りで積み立てる形だから、「もし損したら日常が傾く」という感覚がずっとあった。

だから1円も損したくなかった。

損することが怖いのではなく、損すると「続けられなくなる」気がしていた。心理的な余裕がなかったのだと思う。


2. 貯金が1000万を超えた日

投資と並行して、貯金も続けていた。

元々、浪費グセはなかった。賃貸で家賃は安め。外食もほぼしない。スマホは格安SIM。通信費は月290円の時期もあった。

少しずつ積み上がって、気づいたら貯金が1000万円を超えていた。

その日、何かが変わった。


3. 「10万円が怖くなくなった」感覚

1000万の中の10万は、1%だ。

頭ではわかっていた。でも体感としてわかったのは、初めてだった。

投資で10万円の含み損が出ても「1000万の1%か」と思えるようになった。同じ数字でも、分母が変わると見え方が全然違う。

貯金は、投資の「心理的土台」だったのだと、このとき気づいた。


4. 10万→100万→800万

怖さが変わってから、投資額を増やした。

月1万が月5万になり、ボーナスも追加するようになった。積立額が増えると、資産の増え方も変わった。

10万が100万になり、100万が800万になっていった。

時間がかかったが、途中で引き出さなかった。「長期・積立・分散」を信じて続けた。正確には信じたというより、何もしなかっただけかもしれない。


5. コロナ暴落で800万を一気に投資した

2020年春、コロナショックが来た。

相場が3〜4割下がった。周りが売り始めたとき、俺は逆に買った。手元に置いてあった800万円を、一気に追加投資した。

当時の貯金と、長年積み立てた現金ポジションだった。

「1円も損したくなかった」俺が、800万を一気に動かした。我ながら驚いた。でも、それができたのは「土台」があったからだ。貯金という安全地帯があったから、リスクを取れた。


6. 今では笑える

あの頃「1円も損したくなかった」と思っていた自分が、今では笑える。

怖さがなくなったわけではない。でも、怖さの質が変わった。「損したら日常が崩れる」という恐怖から、「これは長期でみれば誤差だ」という確信に変わった。

その転換点が、貯金1000万だった。

貯金は守り。投資は攻め。でも攻めるためには、守る土台が要る。

投資を始めたいけど怖い、という人に伝えたいのはそこだ。先に守りを固めてから攻める。それだけだ。


月1万から始めて、土台ができた。

その土台が、怖さを変えてくれた。

それが、俺の10年だった。