職場に投資ブームが来た。

きっかけは、定年延長で残っていた先輩だった。退職金で投資を始めて、それが儲かった。嬉しかったのか、よく話すようになった。

先輩が話し始めると、周りも話しやすくなる。気づけば職場の昼休みに投資の話が普通に出るようになっていた。

悪い雰囲気じゃない。むしろ楽しい。俺も混ざって聞いている。


「1000万くらい入れてるの?」

ある日、同僚に聞かれた。

「1000万くらい突っ込んでるの?」

俺は即答した。

「そんな規模でできるわけないですよ!!」

全力で否定した。嘘はついていない。1000万「くらい」ではないから。

同僚は「だよねえ」と笑って話が終わった。


先輩には「すごいですね!尊敬してます!」と言っている

先輩の投資額は、話の感じから5000万くらいだと思う。

「すごいですね!尊敬してます!」

心から言っている。本当に尊敬している。退職金を運用してここまで増やしたのは、それはそれですごいことだ。

ただ、俺も同じくらいある。

それは言わない。言う必要がない。


なぜ本当の額を言わないのか

理由はシンプルだ。

お金の話は、知られた瞬間に関係が変わる。

妬み。距離感。お金の無心。「なんで働いてるの?」という目。根拠のない期待。ろくなことがない。

先輩が話せるのは、退職金という「わかりやすい出どころ」があるからだ。みんなが納得できる文脈がある。定年まで働いて、退職金が入って、それを運用した。誰でもイメージできる。

俺の場合は違う。現役の40代サラリーマンが5000万以上持っていると言っても、「どうやって?」「なんで働いてるの?」と話がいくらでもこじれる。


投資の話をしながら、本音は隠す

昼休みの投資談義は楽しい。

「NISAどうです?」「iDeCoとどっちがいいですかね?」「この銘柄どう思います?」

俺もそこそこ意見を言う。でも資産額は出さない。一般論で話す。

同僚たちが「でも俺らには難しいよな」という話になると、そうですねと相槌を打つ。

心の中では「やれば普通にできるんだけどな」と思いながら。


「すごいですね」と言える人間でいたい

資産額を隠すのは、後ろめたいからじゃない。

ただ、余計な摩擦を生まないための処世術だ。

先輩を立てて、同僚と楽しく話して、自分の本音は胸にしまっておく。全員がハッピーなら、それでいい。

「すごいですね!尊敬してます!」と本心から言える。心が広いわけじゃない。自分も同じくらい持っているから、妬む理由がないだけだ。


唯一困ること

困るのは、転職や副業の話になった時だ。

「今の給料じゃ厳しいよな」「副業でも始めるか」という話になる。

俺も適当に相槌を打つ。でも内心は「給料はあくまでプラスアルファなんだよな」と思っている。

資産の含み益だけで、給料以上の変動が起きる日もある。

それも言わない。

職場での一番の処世術は、お金の話で本音を言わないことだ。