2020年3月。コロナショックが世界を覆い始めた頃、俺はいつも通り朝に証券口座を開いた。

画面を見た瞬間、固まった。

積立NISAの残高が、60万円になっていた。


「アチャー」しか出てこなかった

コツコツ積み上げた100万円が、気づいたら60万円になっていた。

40万円が消えた。数字を二度見した。三度見した。

「やばい」でも「どうしよう」でも「売れ」でもなかった。

口から出たのは「アチャー」だけだった。気の利いたコメントなんて出てこない。ただただ「アチャー」。

本気で焦らなかったわけじゃない。40万円は決して小さな金額じゃない。でも不思議と、売ろうという気にはならなかった。


「3年あれば戻るやろ」という雑な根拠

売らなかった理由は、特に深くない。

リーマンショックも、ITバブル崩壊も、東日本大震災も、後から見ればチャートが戻っていた。それを漠然と思い出しただけだ。

ウクライナ侵攻も、その後の暴落も、結局戻った。世界が終わらない限り、市場は戻る。そういう経験則があった。

「まあ、3年もあれば戻るやろ」

その程度の雑な確信だ。経済の知識でも、相場観でもない。ただの開き直りに近い。

積立の設定も変えなかった。毎月の自動引き落としをそのまま放置した。


戻ったの、1年かからなかった

3年覚悟していたのに、株価は1年かからず戻った。

コロナショックの株価回復は、歴史的に見ても異例のスピードだった。各国の金融緩和がそれを後押しした。

3月に底をつけて、夏には回復が始まり、年末には過去最高値水準になっていた。

正直、もっと買い増せばよかったと今は思う。でもあの時の俺にそんな度胸はなかった。

「下がったら買え」とよく言う。でも本当にやっている人は少ない。少なくとも俺はやれなかった。ただ売らなかっただけ。それだけだ。


投資うまくないけど、辞めなかったから残った

正直に言う。

俺はテクニカル分析もできないし、決算書もまともに読めない。銘柄選びも下手で、個別株では損切りばかりしてきた。

FXで15万溶かしたこともある。追証を経験したこともある。

それでも今、7500万円近い資産があるのは、積立NISAを止めなかったからだ。

賢かったんじゃない。面倒くさくて止めなかっただけ。

毎月の自動引き落としが止まる方が面倒だった。設定を変えるのが億劫だった。放置し続けた結果が、今の資産だ。

インデックス投資の強さは、続けることにある。難しいことは何もない。ただ、続けるのが思いのほか難しい。

下がった時に「アチャー」と笑えるかどうか。それだけの違いだ。


もしあの時売っていたら

シミュレーションしてみた。

2020年3月に60万円で全部売っていたら。その後の回復を取れていないどころか、損失を確定させていた。

積立を止めていたら、底値付近で追加投資できるチャンスを逃していた。

どちらの判断をしていても、今の資産はなかった。

「売らなかった」ではなく「動かなかった」が正確かもしれない。面倒くさくて動かなかっただけだ。


次の暴落でも、たぶん「アチャー」って言う

次の暴落は必ず来る。

歴史を見れば明らかだ。5年に一度、10年に一度、何かが起きる。相場は揺れる。

その時もきっと、俺はPCの前で「アチャー」って言うだろう。気の利いたコメントなんて出てこない。

でも、たぶんまた売らない。

面倒くさくて動かない。積立はそのまま続ける。3年あれば戻るだろうと思う。

それだけだ。

投資が下手な40代サラリーマンでも、続けていれば報われる。少なくとも俺はそうだった。

売らない奴が、最後に勝つ。

何回暴落を見ても、それだけは変わらない真理だと思っている。